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マウスが新しくなった

中学2年のとき、クラスメイトに障害者の子がいた。
授業中に突然「ひー!!」とか「ひー!!あー!!!」とか叫びだす事から、ひーくんという渾名で親しまれていた。
彼は身体的にはなんの問題もなく健康そのものだったのだけれど、精神的な意味で意思の疎通を図ることが極端に難しかった。
それ故に周りの生徒もそれなりの距離を置いてひーくんに接していた。
そんな中で、ひーくんに対してそれなりの距離をおかずに接する人間が一人だけいた。
彼を端的に一言で表現すると、バカである。故に、これから彼のことはバカと呼ぶ事にする。

彼がいかにバカであるかということを説明するのにちょうどいい事件があるのでその話を。
ある日の休み時間に、バカがこんなことを言い出した。「俺寸止めできるよwwww」
周りのみんなの反応はそれはもう冷めたものだった。また意味の分からんことをいい始めやがった、と。
バカは周りのノリが悪いことに憤慨した。
「お前ら見てろよ!まじでできんだぞ!!」そういうとバカはひーくんの目の前に立ち、ひーくんの顔めがけていきなりパンチを繰り出す。
そしてぶつかる寸前で止まる拳。得意そうにドヤ顔をするバカ。ひーくんはよく理解できていないようでニコニコしていた。
だが、バカが「どうよwwww」とほざきながら二回三回と寸止めを繰り返していると、唐突にひーくんが動いた。
バカの顔面に対して、渾身の力を込めた右ストレートを放ったのである。
それは寸止めなどというような生易しいものではなく、バカを殺そうとしているとしか思えないような見事なストレートだった。
突然の事に言葉を失う周囲の人間。ひーくんはいつもと変わらずニコニコしながらひー!とか言っている。
どうもひーくんは目の前の人間の行動を真似しようとするらしい、という事にみんなが気付いたのはそれから二日後の事だった。
これは「自業自得事件」として3日もの間、クラス内で語り継がれた。

その事件から少したったある日の昼休み、バカが例によって例のごとくバカな事を言い出した。
「俺この学校卒業したらプロのヒゲダンサーになるwwwwwww」
周りの反応は、それはもう極限まで冷えきったものだった。
それにもめげずに、バカは「ティルティルティル~ルティル~ルティ~ル~ル♪」などと口ずさみながらヒゲダンスを踊り始めた。
しかし誰一人としてつっこまない。目もあわせない。反応すらしない。
バカはみんなが無反応だと気付くと、さびしくなったのか、ひーくんに助けを求めた。
「ひーくんひーくん、ヒゲダンス!wwwwwwwwねえひーくん!俺上手くね!?wwwwwwww」

バカは確かにバカであったが、しかし、それほど質の悪いバカではなかった。
いかに自業自得とはいえども、それでも顔を本気で殴られたら、普通はその殴った人を敬遠するようになると思う。
こんな事を言うのは非道徳的だとは思うが、精神障害者となればなおさらだ。
しかしバカは、事件後もひーくんに対する接し方を全く変えなかった。その点は評価されるべきだろう。
まあ自業自得ではあるのだけれども。

話を戻す。
ひーくんはバカのヒゲダンスをニコニコしながら見ていた。そして少しずつノリ始める。
おや、真似するのか・・・?と周囲が思い始めたその瞬間。
ひーくんは、突然、自分のズボンを足元までずり下ろした。
これは後で気づいた事だが、ひーくんはきっとあのヒゲダンスの動きをズボンを脱ぐ動きだと判断したのだろう。
そしてその真似をして、本当に、寸止めではなく本当に、ズボンを脱いでしまったのだ。
まあそれだけだったらなんの問題もなかった。いや問題はあっただろうが、それほど酷い問題にはならなかったろう。
しかしひーくんは、あろう事か、ズボンだけでなくパンツまでずりおろしてしまっていたのだ。
下半身丸出しでにこにこしながらひー!とかいっているひーくん。
あまりにも予想外の出来事に周りの連中は立ち尽くす以外になにもできずにいる。
悪いことは重なるもので、その普通ならありえない場所でこんにちはしたひーくんの息子がとんでもないモンスターだった。
中学生としてはあり得べからざるほどの黒い巨塔が、そこにはあった。
いまだに、AVなどを見ていても、彼を超えるものを持っている男を見た事がない。
あれはもうモンスターという以外に形容しようのない、モンスターの中のモンスターだった。

その後の教室は阿鼻叫喚の大騒ぎである。それはまさしく地獄絵図の呼ぶにふさわしい情景だった。
きゃー!とありがちな叫び声をあげる女子。あまりにも残酷な現実を直視してしまい、混乱する男子。
呆けたように口をあけて立ち尽くすバカ+α。
悪いことはさらに重なった。そのてんやわんやの大騒ぎに吃驚したひーくんがどのような行動に出たか。
なんとズボンとパンツを両足にひっかけたまま、足かせがついているとは思えないほどの速さで教室から飛び出してしまったのである。
誰一人として動かなかった。いや、動けなかった。誰にも、今のひーくんを止めることはできなかった。
泣き出す女子が現れ、意気消沈する男子が現れ、時間が止まってしまったように動かないバカ+αが
「・・・でかっ・・・!」と搾り出したような声を出すに至り、ようやく騒ぎを聞きつけた先生が教室にやってきた。
先生はバカ+αに「何があったんだ?」と聞いた。バカが答える。
「ヒゲダンスのプロになりたくて・・・踊ってたらひーくんがパンツ脱いで・・・」
わけがわからん!と怒鳴った先生は、常識的に考えれば間違っていないと思う。
しかし今回に関してはバカは間違ってない。確かにバカの言っている事が実際に起きたのだ。

それから先、この大騒ぎが一体どのような展開をたどったのかについては書かないで置こうと思う。
僕に言えるのは、以下に示す二つの結論だけである。

一連の事件は「セクシーコマンドー事件」と名付けられ、学校内で1ヶ月の間語り継がれた事。
そして、次の日から「ひーくん」の渾名が「ひーさん」に変わった事。
by syunsukea | 2007-10-28 03:13
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